夏目漱石、芥川龍之介、太宰治・・・。誰もが一度は聞いたことがある名前。明治~大正~昭和初期にかけて活躍した、日本の小説家たちです。この名だたる小説家たちに愛煙家が多いのはご存じでしたか?

作品にもタバコが登場するほど、この時代の小説家たちとタバコは切っても切れない関係だったようです。

今回は、愛煙家だった小説家の作品を紹介します。読んだことがある作品も登場するかもしれませんよ。

小説家の名誉、直木賞と芥川賞の元となった二人が愛用していたタバコ

●直木三十五(1981年2月12日-1934年2月24日)

直木賞は通称で、正しくは「直木三十五賞(なおきさんじゅうごしょう)」。新進作家、無名作家、中堅作家の書籍になった作品が対象になる賞で、大衆文学の権威ある賞とされています。

直木三十五の小自伝「私の略歴」には、こんな一文が書かれています。

『酒は嗜(たしな)まず。野菜物を好む。煙草は、マイミクスチュアか、スリーキャツスルのマグナムに限る。但し、金がないとバットにても結構。』

3つのタバコの銘柄が挙げられています。“バット”とは、ゴールデンバットのこと。

お酒は飲まずに野菜好き。健康的な食生活に思えますが、タバコを嗜んでいるということは、健康とはいえなかったかも知れないですね。

●芥川龍之介(1892年3月1日-1927年7月24日)

芥川賞は「芥川龍之介賞」が正式名です。直木賞と同時に作られ、雑誌に掲載された新進作家や無名作家の作品に与えられる賞であり、若手作家の受賞は毎年話題になるほど。

芥川龍之介は、ヘビースモーカーだったことが有名で、直木三十五と同じく、ゴールデンバットを好んでいたそうです。そして、作品の中にもタバコが多く登場します。

そのひとつ『煙草と悪魔』では、タバコが日本に伝わったことに対してこんな表現をしています。

『そこで、この煙草は誰の手で舶載(はくさい)されたかというと、歴史家なら誰でも、葡萄牙(ポルトガル)人とか、西班牙(スペイン)人とか答える。が、それは必ずしも唯一の答ではない。そのほかにまだ、もう一つ、伝説としての答が残っている。それによると、煙草は、悪魔がどこからか持って来たのだそうである。』

この『悪魔』というのは誰を指しているのか。それは、フランシスコ・ザビエルと共に、鹿児島県平戸に上陸した伊留満(いるまん ※ポルトガル語で兄弟という意味)という宣教師たちのこと。『悪魔』はその伊留満の一人に化けているというのです。伊留満は、タバコやタバコ葉の栽培を日本に伝えたとされています。それを『悪魔』と表現したのは、実に興味深いですね。

詩人の作品に登場するタバコ

●中原中也(1907年4月29日-1937年10月22日)

『汚れちまった悲しみに・・・』が有名な詩人、中原中也。彼もゴールデンバットの愛用者でした。それが分かるのが『七銭でバットを買って』という詩。

『七銭でバットを買って、

 一銭でマッチを買って、

 ――ウレシイネ、

 僕は次の峠を越えるまでに、

 バットは一と箱で足りると思った』

このほかにも、『タバコとマントの恋』、「わが喫煙」など、タバコをテーマにした詩が残されており、かなりの愛煙家だったことがうかがえます。

●北原白秋(1885年1月25日-1942年11月2日)

『この道』や『あめふり』などの童謡作家としても知られる北原白秋。子どもに向けたやさしい詩を書く一方、相当なヘビースモーカーで、なんと1日に12箱も吸っていたそうです。そんな北原白秋が愛煙家だと分かる詩がこちら。

『煙草のめのめ 空まで煙(けぶ)せ どうせ この世は 癪(しゃく)のたね

 煙よ 煙よ ただ煙 一切合切(いっさいがっさい) みな煙』

タバコの煙をふかしながら、物思いにふけっている。そんな情景が浮かんでくるようです。

こだわり?のタバコがあった小説家

●太宰治(1909年6月19日-1948年6月13日)

『人間失格』、『走れメロス』など誰もが一度はタイトルを聞いたことがあるかもしれません。太宰治はタバコにこだわりを持っていたようで、『女生徒』という小説の中にこんな一文があります。

『なぜ、敷島なぞ吸うのだろう。両切のタバコでないと、なんだか、不潔な感じがする。煙草は、両切りに限る。敷島なぞすっていると、そのひとの人格までが、疑わしくなるのだ』

敷島というのがタバコの銘柄。今でこそ、タバコのフィルターは一般的になりましたが、当時は口付紙巻タバコと両切りタバコの両方が流通していたのがうかがえます。

タバコの銘柄で人格まで判断してしまう、太宰は変わり者だったのかも知れませんね。

●夏目漱石(1867年1月5日-1916年12月9日)

『吾輩は猫である』、『坊ちゃん』、『こころ』といえば、夏目漱石。太宰治が嫌っていた敷島を吸っていたのが夏目漱石です。

夏目漱石の日常生活を綴ったエッセイ『文士の生活』では

『常に家にいて吸っているのは朝日である。値段はいくらか知らぬが、安いのであろうが、妻がこればかり買っておくから、これを飲んでいる。外に出て買う時にかぎって敷島を吸うのは、十銭銀貨一つ投りだせば、釣銭が要らずに便利だからである。朝日よりもうまいかどうか、私には解らぬ。』

朝日もタバコの銘柄。自分が買う時には釣銭をもらうのが面倒だったのでしょうか。しかし、夏目漱石の作品には敷島が良く登場しており、うまいかどうか分からないと言いつつ、敷島の方が好みだったのかも知れませんね。

後世にいつまでも残る、日本が誇る作家たち。その裏側にはタバコの存在がなくてはならないものでした。タバコがあったからこそ、生まれた作品もあったかもしれません。違った目線で見てみると、一度読んだ作品をもう一度楽しめそうです。

禁煙推進ライター 松本澄子

(参考)

大人の嗜好品研究会編纂『タバコを知ってタバコをやめる 煙草の蘊蓄』彩図社、2005年開高健編『たばこの本棚 5つの短編と20の随想』青銅社、昭和54年

夏目漱石著『漱石全集 第十一巻』角川書店、昭和35年

芥川龍之介著『芥川龍之介全集 第二巻』角川書店、昭和43年

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